しっかりとした固さがあって、お口のなかでほろりとほぐれる……。そんな理想のおにぎりをケータリングで提供し続けているお米クリエイティブ集団「ごはんとおとも」のおふたりに、彼ら自慢のふわっふわに握る究極「ほぐれおにぎり」の作り方を教わりました。
お口でほろり…!「ほぐれおにぎり」の握り方
以前、ある専門店のおにぎりを食べて感動したことがあります。ふわっとやわらかなのに、手で持っても形は崩れず、口にいれるとほろりとほぐれて……。お米の甘さをあんなに豊かに感じられたのは人生でもはじめて。まさに衝撃的な体験でした——。
あの職人技と比べたら、自分で握ったおにぎりなんてただのごはんの塊としか思えません……。だからこそ、ああいうおにぎりを自分でも握れるようになりたい!
そこで今回、おにぎりのプロフェッショナルを編集部にお呼びして、おいしく握るコツを教えてもらうことにしました。お忙しいなか時間を割いてくれたのは、お米クリエイティブ集団「ごはんのおとも」の橋本英治さんと詫摩友彦さん 。ケータリングサービス「出張ほぐれおにぎりスタンド」で人気急上昇中のおふたりです。
名人級と評判のおふたりが教えてくれたのは、“その場でふわっふわに握る究極のほぐれおにぎり”の握り方。お米の選び方から海苔の巻き方まで、ガッツリ質問し倒してみました。
教えてくれた人たち
お米クリエイティブ集団「ごはんとおとも」手前/橋本英治さん 奥/詫摩友彦さん
1. まずはお米選びから!「モチモチ」で「甘い」銘柄を
おにぎりは炊いたお米をにぎってつくる料理ですから、なにはなくともお米が大事。特徴の異なるさまざまな銘柄があるなかで、おにぎりに合うお米とはどういうものなのでしょう。
「好みもあると思うのですが、ボクらの場合、炊いたときに粒がしっかりとして、でもねばり気があり、甘みがある……そういうお米を選んでいます。
おにぎりで大事なのは、口に入れたときの食感だと思うんです。粒がしっかりしていてねばりがあると、日本人好みのモチモチとした感じになる。加えて、甘みというのはお米そのものの旨み。ボクらにはお米自体を味わってほしいという気持ちがあるので、これは欠かせない要素です。さらにいえば、ツヤがあるといいですね。ツヤのあるお米は総じて舌触りがよく、口当たりだけで食欲をそそりますし、咀嚼の際にストレスがありません」
2. ほぐれおにぎりに使うお米の炊き方

「まず、最初にお米にふれさせる水はミネラルウォーター。カルキ臭のない浄水でもOKです。お米は乾物なので、最初に接触する水を一番多く吸収する。この水の違いで味に大きな違いがでます。
お米を研ぐときの手はボールをつかむような形にし、20回ほどやさしく動かします。この20回というのは、米ぬかを落としすぎないちょうどよい回数。お米独特の香りがほどよく残るこの塩梅が好きなんです」
お米を炊く前の浸水時間は「夏は最低30分、冬なら1時間、最大8時間ほど」とのこと。8時間以上となると、お米が割れやすくなってベチャベチャとした仕上がりになる可能性が高まるのだとか。
ちなみに、ごはんとおともでは菌の繁殖を避けるため、研ぎ終えたお米は水気をきってジップロックに入れているそう。その状態でも問題なく浸水できるんですって。
水加減の目安は「+20ml」
炊くときの水加減は、「お米と同体積の水分+20ml」が目安。
「よく『硬めのお米が好きだから、水少なめで炊く』というお声をいただきます。でも、そういう人も意識していないだけで、本当は粒は硬めだけど、粘りがあって、舌触りがいいツヤがあるお米が好きなのだと思っています。
硬めを意識して水を少なくしてしまうと、おにぎりを握って食べるときにはそういうコンディションからかけ離れたお米になっていることがあるので、少しだけ水を多めにしています。とはいえ、炊飯器によってはふつうの水量でも良い加減で炊けるかもしれませんので、おウチでいろいろ試しながら好みの水加減を見つけだしてください」
3. 浄水でしっかり手を湿らせる
お米にふれる前にしっかりと手を湿らせる。おにぎりを握る作業はここからスタートとなります。
「理由はふたつあって、ひとつは握るときにお米が手につかないようにするため。もうひとつは、お米に塩を浸透しやすくするためです」
さらに、手につける水にも気を使っていると橋本さん。
「基本的にはミネラルウォーターか浄水を使うようにしています。お米と一緒に口に入るものなので、風味にクセがあるような水は避けていますね」
4. 手塩の量はひとつまみ
次に、濡らした手に塩を取ります。分量を訊ねると、「ボクらの場合、塩の量はだいたいこのくらい(上画像参照)」と実演してくれました。見た感じ、小指以外の四本指でつまむくらいでしょうか。とはいえ、「塩加減には好みがあると思いますので、実のところここにはルールというほどのものはありません」とも。
「つまんだ塩は、濡らした手にすりつけてなじませます。塩が少しとけるくらい手のひらが濡れていると、塩が薄まり、お米に浸透しやすくなります」
5. お米をつぶさず、やさしくすくい取る
手に塩をなじませたら、いよいよお米を手に取ります。ここでのコツは、「とにかくお米をつぶさない。これが大切」と橋本さん。
「繰り返すようですが、ほぐれおにぎりはお米を味わうためのもの。お米がもつせっかくの食感を台無しにしてはいけませんから、つぶさないよう注意してすくい取ってください」
写真のように指に角度をつくって、斜めからやさしく差し込むようにすると、お米をつぶさずすくい取れるそうなので、ぜひ試してみてください。
お米の分量は、「手のひらの真ん中をくぼませて、そこに収まるくらい」。お米を軽く広げたら、空いた指先で真ん中にくぼみをつくりましょう。このときもお米をつぶさないよう気を付けてくださいね。
6. 味がしっかりしている具材は中心に
手のひらにお米を広げたら、具材をのせます。分量は具材によって適量が違い、シャケのように味がしっかりしている具材の場合、「全体にのせるとお米の風味を感じられなくなってしまうので、中心部にだけ置きます」とのこと。
一方、そのまま口に入れても味が濃いとは感じないような具材なら、「どこから食べても同じ味を楽しめるよう、お米の上に満遍なく広げます。ボクらがよく使う具材でいえば、梅おかかとかツナマヨがそう」と橋本さん。どちらにしても、ポイントは「入れすぎないこと」。あくまでもおにぎりはお米の味を楽しむものと意識しながら分量を調節しましょう。
ちなみに、ごはんとおとものおふたりの場合、おにぎりに入れる具材はお米の甘みの強さに合わせて選んでいるとのこと。甘みの強いお米には味の強い具材、風味控えめなお米には同じく味付け控えめな具材を使うと味のバランスが整うといいます。さらに、「鮭や明太子をシンプルにそのまま使うより、2つ以上の食材を合わせて用意することが多いです」と詫摩さん。
「たとえばサバがあるなら、それだけを具材にするのではなく、サバを焼いて大葉とおろしポン酢で和えてみる。シンプルな具材もおいしいですが、ひと手間かけてかけ合わせてみると楽しいかなって思います」
7. お米をかぶせるときのコツ
次に、先と同量のお米を手にとり、かぶせていきます。そのまま雑にかぶせてしまうと味にバラつきがでるので、「空いた手でお米をとったら、親指の腹で軽く圧しながらお米の表面を整え、具材を入れるポケットを真ん中につくってください」と橋本さん。
また、かぶせるときは押し付けるのではなくのせるくらいの力加減がいいとのこと。お米の粒はもちろん、お米とお米の間にできている隙間もつぶさないよう意識して作業してください。
8. 境目に指をすべらせて隙間を埋める
お米を重ねたら、いよいよ握る……のではなく、その前にやるべきことがひとつあります。
「ひと塊になっているようにも見えますが、この状態ではまだ上のお米と下のお米が分かれています。そこで、側面の境目をなくす作業をおこないます」

「お米に手をかぶせ、すべらせるようにして横に回してください。これを何度か繰り返して、側面の境目をなじませていきます」
力はこめず、手を回しながらお米全体をつまむような気持ちで手を動かすのがコツとのこと。
境目がしっかりなじむと、お米はこのような状態に。これもうすでにおいしそうですね……。
9. ギュッと握れば台無しに!3回で三角形に
ここからついにおにぎりを握る作業です。どういうコツを押さえれば、お口のなかでほろりとほぐれるおにぎりになるのでしょうか。
「丸い状態のおにぎりの底に左手をあて、右手の人差し指、中指、薬指をくの字に曲げてお米を軽く圧し込む。こうすることで山をつくります。形を整えることを意識して、絶対ギュッとは握らないでください」
「お米を回しながらこの作業を続け、三角形に整えます。必要以上に繰り返すとお米とお米の隙間が詰まって固いおにぎりになってしまうので、それぞれの角に各1回、計3回で終えること」
さらに、「ガチガチの三角にする必要はありません。丸みが残っているくらいで十分です」と橋本さん。理由は簡単で、少し丸みを残したおにぎりのほうがほぐれ具合が良く、見た目にもおいしそうだから!
適度に形が整ったら、次の作業です。
10. 海苔のパリッを楽しんでもらえる巻き方を
では、海苔を巻いていきましょう。橋本さんによると、ごはんとおとものほぐれおにぎりは「全部は巻かない」んだとか。
「冷めてもおいしいおにぎりをつくるなら、おにぎりを海苔で包みこんでしまった方がしっとりとしておいしくなるんですが、ボクらのおにぎりはそうではないので。握ってすぐに食べてもらうのであれば、海苔のパリッとした食感をより強く楽しめるボクらの巻き方のほうがいいと思います」
ちなみに、おにぎり1つに使う海苔の大きさは、「全型の海苔を3等分したくらい」。具体的な大きさについては上の画像を参考にしてください。
海苔をのせるときは、「片手に海苔を広げ、空いた手でその真ん中に置くようにしています」(橋本さん)。あとはおにぎりの側面に海苔をつければOK。作業的にはとても簡単。悩むようなところはありません。
そうして海苔を巻いた状態がこちら。おにぎりにふんわりと張り付いた海苔、たしかにパリッとしていますね。
11. おにぎりの頭に具材をのせてできあがり
仕上げに、具材をおにぎりの頭にのせます。橋本さんに理由を訊くと、「なかの具材がひと目でわかりますし、こうしておけばひと口目からしっかり具材が口に入っておいしいじゃないですか。たとえば鮭おにぎりを注文した人がそれを食べるとき、頭のなかは鮭とお米の甘さのことでいっぱいだと思うんですね。握り手として、その期待感にいち早く応えられるものをつくりたいというか……これ、伝わりますかね(笑)」とのこと。
そうしてできあがったのがこのおにぎり。なかの具材は鮭明太です。
さっそく試食をしてみると、海苔がパリッと音を立てるや否や、口に入れたお米の塊がほろりとほぐれ、お米の甘みが口いっぱいに広がりました。塩加減はもちろん、具材の量とお米のバランスも申し分なし。噛みしめるほど沁みる旨みに、試食をした全員が知らず笑顔になっていました。握りたてだったこともあり、その味わいはまさに格別!究極のほぐれおにぎり、本当においしゅうございました……。
ほぐれおにぎりがみんなを笑顔に

最後に、「おにぎりの良さってどんなところだと思いますか?」と橋本さんに訊ねてみました。
「ケータリングで行った現場で、『仕事はきついけど、このおにぎりのおかげでがんばれる』なんて言っていただけることがちょくちょくあって。おにぎりには人を元気にする力があるのかな?って思うことがあるんです。今改めて考えると、ボクらふたりはそういうおにぎりの魅力に引かれて今の仕事をしているのかも……。
ご紹介したおにぎりの作り方を覚えたら、ぜひご自分の家族やお友だちにおにぎりをふるまってみてください。そうして多くの人が元気になってくれたらいいな……って思います」
今回ご紹介した“ほぐれおにぎりの握り方”、後日自宅で試してみたところ、かつて自分が握っていたものとは次元の違うおにぎりをつくることができました。このメソッドを実践すれば、誰でも口ほぐれの良いおにぎりを握れる。これは自信をもって断言できます。
もし周囲に暗い顔をしている人がいたら、自作のほぐれおにぎりを差し入れてみてはいかがでしょう。握りたてのおにぎりのおいしさには、快感にも似た感動がある。あなたのほぐれおにぎりが上手に握れていたなら、きっと明るい笑顔を見せてもらえるはず!
構成・文・写真:植松富志男(macaroni編集部)